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#1 お宮参りの歴史とルーツを探る

【特集:お宮参り】#1

赤ちゃんが誕生してまもなく迎える「お宮参り」や、幼い頃に経験する「七五三」は、子どもにとって大事な儀式。いずれも古来より、さまざまな“いわれ”がありますが、そもそもお宮参りが、なぜ現代のような形となったのかを紐解き、お宮参りにいくべき理由を知るため、國學院大學の名誉教授で、宗教社会学がご専門の井上順孝先生に、お宮参りの歴史を詳しくうかがってきました。

◆お宮参りは多産多死の悲しい時代にはじまった「祈り」の儀式だった

子どもの成長過程で行われる行事は、世界各国で見ることができるそうです。日本のお宮参りや七五三は、「お食い初め」や「成人式」などと同様、子どもの成長過程における節目で行われてきた、日本独自の習俗です。

「特に、江戸時代以前は、多産多死の時代。生まれたばかりの子どもが元服(成人)するまで健康に育つのが約半分とも言われていた、厳しい時代だったのです。そこで、子どもの成長過程の節目において、家族や地域といった共同体の間で『子どもが無事に育った』ことを祝う“通過儀礼”を、手厚く行ってきたのです」(井上先生)

それらの起源をはっきり示すことはできませんが、赤ちゃんが無事に生まれたことに感謝し、「すくすくと立派に育って欲しい」という願いや祈りが込められた行事のひとつが、お宮参りだといえるでしょう。

◆赤ちゃんの儀式には生物学的な意味がある!?

昔からのいろんな言い伝えや儀式は、知らず知らず、生物学的な意味が関係しているのではないかと、井上先生は話します。

「例えば、本当に生まれたばかりの赤ちゃんは先天的なものを除けば、母親の免疫機能を受け継いで、病気をしにくいと言われています。その免疫の効力も3ヶ月くらいで消えてきます。半年後くらいからいろんな病気をしやすくなりますし、病気をしながらさまざまな免疫を身に付けていくわけですね。
お宮参りに30日前後でいくというのは、実はこうしたことが関係しているかもしれません。 そして、その免疫が消える頃に「百日祝い」「お食い初め」のような、赤ちゃんの健康を願う通過儀礼が行われるわけです。
昔の人は、生物学的に詳細なメカニズムはわかっていなかったけど、いくつもの体験を代々重ねたことを元に、たくさんの儀式を確立していったのでないでしょうか」(井上先生)

◆お宮参りは神社へ……の習慣は明治時代に始まった!?

昔から、晴れやかな儀礼は神社で行い、お葬式や法要といった死者を弔うような行事は寺で行う、というおおよその基準がありました。お宮参りや七五三は、人生儀礼のひとつであり、晴れやかな儀礼でもあるため、神社で行われます。

「なかでも、お宮参りや七五三の際は、土地の神である“氏神(神社)”に参るという意識を広めたのは、明治時代の政府です。本来の氏神は、藤原氏などの一族の神様をまつる、というのがひとつのルーツです。それが、土地の神である産土神(うぶすながみ)と融合し、氏神といえば“地域の神様”ということになりました。そして、住んでいる地域ごとに、その人はどこの神社の氏子か、ということを、明治政府が決めていったのです」(井上先生)

最初期といわれている平安時代の公家から、現在、一般の人々が行っているものまで、お宮参りや七五三などの儀式は、時代に合わせてさまざまなスタイルに変化してきたのです。

「お宮参りや七五三といった子どもの成長を祝う儀式の歴史は、“変化の歴史”ともいえます。民間信仰にまつわる行事でもあり、キリスト教におけるクリスマスと同様、「こういうやり方が絶対正しい!」という正解がありません。成長を祝う儀式の本質は、時代ごとの人々のニーズによって変わっていくものなのです」(井上先生)

【教えてくれた人】

國學院大學
井上順孝 名誉教授

国際宗教研究所宗教情報リサーチセンター長。宗教社会学や認知宗教学などを専門とし、国内外の現代宗教を広く調査・研究。『解きながら学ぶ日本と世界の宗教文化』(宗教文化教育推進センター)や『宗教社会学を学ぶ人のために』(世界思想社)など、著書や共著多数。また『ホンマでっかTV』(フジテレビ系列)などの番組にも出演。わかりやすい語り口でも定評がある。

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19.06.07
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