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#01 七五三の歴史と由来

【特集:七五三】#01

七五三祝ひの図 二代歌川豊国
弘化頃(1844-1848)
先頭は三歳髪置きの娘で、髪を結い赤い振袖を着て抱え帯をした母におぶられている。次は七歳帯解きの姉娘で、この日から付紐を用いない振袖を着て、頭には長寿の願いを込めた綿帽子を着けている。

七五三の由来については、いまだにはっきりしていない部分が多く、地域によっても決まり事やしきたりがさまざまです。そこで、國學院大學の名誉教授で、宗教社会学が専門の井上順孝先生に、七五三の歴史についてうかがいました。

3歳、5歳、7歳はもともと別々のお祝い儀式だった

子どもの成長過程で行われる行事は、世界各国で見ることができます。そのうち日本の七五三は、「お宮参り」や「お食い初め」、「成人式」などと並び、子どもの成長過程における節目で行われてきた日本独自の習俗なのだそうです。

「現代の『七五三』という言葉が生まれたのは、明治以降です。それ以前は、3歳、5歳、7歳という節目に、それぞれ名称の異なる儀式が存在しました。その3つがセットとなったのは、江戸時代のことだといわれています」(井上先生)

以前は、2〜3歳の節目で「髪置き(かみおき)」、5歳の節目に「袴着(はかまぎ)」、7歳の節目に「帯解き(おびとき)」を行っていました。
「髪置き」とは、女児が頭髪を伸ばし始める儀式。長寿を祈願して絹で作った白髪を頭上にのせ産土神に参拝しました。
「袴着」とは、幼児に初めて袴をはかせる儀式。古くは3歳から行われ、男女の区別なく行われているもので、江戸時代以降5歳男児に定着したと言われています。
「帯解き」とは、女児が着物の付け紐を外し、大人と同じ幅広の帯をはじめて使い始める儀式のことです。

平安時代の公家? それとも徳川綱吉? 七五三のルーツを探る

「こうした儀式を始めたのは、平安時代の公家たちだろうといわれています。一般に広まったのは、戦乱の世を経て平和な時代になった、江戸時代中期ごろです。一説によると、5代将軍・徳川綱吉の息子、徳松が病弱だったため、その健康を祝って始められたもの、だという話もあります。

また、綱吉の件とは別に、七五三が江戸時代に広まり始めたことを示す書物も存在しています。17世紀後半の江戸時代に、女性向けのハウツー本のような書物が出版されました。そこに七五三の原型らしき儀式が書かれています。また千歳飴についても、千歳飴を持った子どもが浮世絵に描かれており、江戸時代には存在していたことが明らかになっています」(井上先生)

ではなぜ、3歳、5歳、7歳の節目に祝われるようになったのでしょう? 井上先生によると、中国の漢の時代に、礼記(らいき)という日本の儀礼に大きな影響を与えた書物が書かれました。その礼記に、中国では奇数が陽を示すという、「陰陽五行説」のことが書かれていたそうです。

「七五三に限らず、中国のさまざまな考えが日本に入ってきて、慣習として残っていく例は珍しくありません」(井上先生)

七五三は神社へ……の習慣は明治時代に始まった!

昔から、晴れやかな儀礼は神社で行い、お葬式や法要といった死者を弔うような行事は寺で行うという、おおよその決まりごとが存在していました。そのため、人生儀礼のひとつで、晴れやかな儀礼でもある七五三の儀式は、神社で行われるようになります。

「七五三の際、土地の神である“氏神(神社)”に参るという意識を広めたのは、明治政府です。本来の氏神は、藤原氏などの一族の神様をまつる、というのがひとつのルーツ。それが、土地の神である産土神(うぶすながみ)と融合し、氏神といえば“地域の神様”ということになりました。そして、人それぞれ、住んでいる地域ごとに、どこの神社に属す「氏子」なのかを、明治政府が決めていったのです」(井上先生)

つまり、七五三は氏神に参拝へ行く、というくっきりとした習慣は、実は明治以降に形づくられたものということです。原形とされる平安時代の公家から、現在、一般の人々が行っているものまで、七五三の儀式は、時代に合わせてスタイルを変化させてきたのです。

「七五三を始めとする、子どもの成長を祝う儀式の歴史は、“変化の歴史”ともいえます。民間信仰にまつわる行事でもあり、キリスト教におけるクリスマスと同様、このやり方が正しい、という正解はありません。成長を祝う儀式の本質は、時代ごとの人々のニーズに合わせて変わっていくものなのです」(井上先生)

【教えてくれた人】
國學院大學 井上順孝名誉教授

国際宗教研究所 宗教情報リサーチセンター長。宗教社会学や認知宗教学などを専門とし、国内外の現代宗教を広く調査・研究。『解きながら学ぶ日本と世界の宗教文化』(宗教文化教育推進センター)、『宗教社会学を学ぶ人のために』(世界思想社)など、著書・共著多数。『ホンマでっかTV』(フジテレビ系列)などテレビ番組にも出演。分かりやすい語り口には定評がある。

写真/PIXTA

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19.06.28
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