きもの

【有職文様】よく見るのに、よくわからない?有職故実で温故知新

画像出典:『源氏物語絵詞』[1], 和田正尚 模写, 明治44[1911]. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/2590780]

有職(ゆうそく)文様とは?

平安時代以降、貴族の社会で装束や調度品、道具などに用いられた文様のことをそう呼びます。

「有職」(古くは「有識」とも)という言葉はもともと、宮廷内の儀式や行事の礼儀作法に精通していること、博識で教養豊かであることを指したとされます。貴族の文化には過去の例を非常に重んじる慣習があり、「過去の事例をたくさん知っていること」が即ち「現実の物事への対処のしかたをたくさん知っている」ということにもなったわけです。

平安時代以後,朝廷の儀式典礼を行う場合,そのよりどころとなる歴史的事実を故実といい,この故実に通じていることを有職といった。有職は〈ゆうそこ〉ともいい,古くは有識と書いた。中世以来故実は公家儀礼における公家故実と武家儀礼における武家故実にわけられ,前者を単に有職といい,後者を故実という場合が多い。(平凡社『改訂新版 世界大百科事典』)

この中世以後の用法から転じて、貴族たちが用いた文様を「有職文様」と呼ぶようになりました。

成立の背景

奈良時代から平安初期の都には、唐からもたらされた国際色豊かな文化が流行します。「天平文化」や唐風文化と呼ばれるそれは、色鮮やかで絢爛な装飾が特徴的です。

典型的な正倉院唐花文。赤や青、金などコントラストの強い多色遣いで、非常に華やかな印象を与える。

少し時代が下り平安時代の中ごろになると、遣唐使の減少・停止に代表されるように、中国との政治的な繋がりは弱まります。そして朝廷や貴族たちの中で、骨組みには唐風の文化を持ちながらも、そこへ日本の風土に根ざした生活文化が接続され、独自の文化が形成されていくのです。おおよそ今日の私たちがイメージするような「日本的なもの」「和風のもの」が形成されていく時期にあたるといえるでしょう。

唐花丸(からはなのまる)。装束でも上の正倉院唐花文のよりも色遣いは穏やかになり、単色で表現されることが増えた。(画像出典:河辺正夫 編『日本装飾大鑑』. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/966515])

当時は慣習として、家格・伝統・位階に応じて使ってよいもの/いけないものがある程度決まっていました。今は身分制は廃止されていますから「使ってはいけない」ということはなくなりましたが、文様の持つ格式高いイメージは今でも受け継がれているようです。

装束の文様と特徴

染織品についても、「正倉院」に代表されるような格式ある意匠を基にしつつ、身近な動植物や自然現象などを組み合わせたり、アレンジを加えたりして、独自の端正な様式を確立させていきます。

特に有職文様については、「〇〇のような要素があれば菊」とか「◇◇なら桐」と判別できるような、簡略化とパターン化、抽象化が進んでいます。

正倉院宝物をモチーフにした宝相華と花喰鳥。複雑で色彩豊か。
唐花丸(からはなのまる)。(画像出典:河辺正夫 編『日本装飾大鑑』. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/966515])
松喰鶴(まつくいづる)。左右対称に植物を咥えた鳥を配するモチーフは正倉院文様と共通するものではありますが、松と鶴という和風の動植物でアレンジされています。(画像出典:徳力富吉郎 編『名作能衣裳』. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/13578539])
※舞楽は貴族の教養として尊ばれました。舞楽の衣裳には有職文様が多く用いられますが、普段の装束よりも色遣いは華やかになっています。

皇族や貴族の装束はそれまでの華やかな唐風のものから、比較的穏やかなものへと変化していきました。衣服を何枚も重ね着するスタイルが主流になり、一枚で目立つ絢爛な衣服よりも、衣服の重ねによる色合わせの美しさ・華やかさが好まれたのです。

当時の装束は基本的に織文様のものでした。たくさんの色の糸を使って多色の文様を織り出す「錦織」よりも、かなりシンプルなものになっているといえます。主に夏は紗、それ以外は綾織のものが用いられていたようです。

襲(かさね)色目のオシャレと地紋の装束。(画像出典:『源氏物語絵詞』[2], 和田正尚 模写, 明治44[1911]. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/2590781])

モチーフの系譜としては奈良時代以来の唐風の文化から繋がるものが多いですが、簡略化やアレンジがなされていたり、四足の獣(獅子など)が用いられることが減ったりと、独自の美意識の発達が窺えます。

※置物や絵画、武官の装束などには獅子や熊などの獣が用いられることもありましたが、きものの文脈でイメージされる「有職文様」とはかなり離れてしまうため、今回は割愛します。貴族文化のしきたり全般を指す広い意味での「有職」の文様と、きものの文脈における狭い意味での「有職文様」には、含む範囲にかなり大きな開きがあると考えるのがわかりやすいでしょう。

有職文様と吉祥文様

正倉院や有職などの古典文様について、「吉祥文様とは何が違うの?」という声を耳にします。そこには分類のしかたの違いがあるのですが、「有職文様であり吉祥文様でもある文様」なども多くあるため、混乱しやすいことは否定できません。

「有職文様」には「日本の貴族の装束に用いられた文様」、「吉祥文様」には「めでたい意味合いを持つ文様」といった意味合いがあります。

もちろん有職の装束にも、普段着から宮廷儀礼の際のハレ着まで色々ありました。当時もハレ着には縁起のよいものを身に着けましたから、「有職」と「吉祥」の重なる部分はそのような経緯で生まれたものと考えられます。現代のハレ着にも、そんな重なり合った部分のものが多く使われているために、混乱しやすくなっているわけですね。

「分類」というのは整理のために後から作られるものですが、現実の事物は往々にして、いくつもの分類が重なり合ったところにあるのです。

文様の形式

①続文(つづきもん)

全体を埋め尽くす連続した文様。一定のパターンの繰り返しで構成され、途切れることなく繋がっています。

※写真は現代の色無地(葡萄唐草文)のものです。糸の質や織り方に変化はあるでしょうが、地文様のイメージしやすいものとして使わせていただきました。
上に同じ。こちらは小葵文の襦袢地。当時の絹布は技術的な問題で今よりも薄かったとのことなので、襦袢地くらいの方が平安頃の装束には近いのかもしれません。

飛文(とびもん)

独立した文様や、続文の一部を切り取って独立させたもの。隣り合う文様どうしが繋がりません。

浮線綾文の直衣。(画像出典:広重『源氏物語五十四帖 箒木』, 嘉永5. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/1308826])
小葵文の一部が独立して使われています。(画像出典:徳力富吉郎 編『名作能衣裳』. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/13578539])

比翼文(ひよくもん)

2つの異なる飛文を組み合わせたもの。

画像出典:平安文様素材集 綺陽堂 [http://www.kariginu.jp/sozai/]
有職らしい意匠を友禅でアレンジしたものです。

二陪織(ふたえおり)

続文の地文様の上に飛文を載せた豪華なもの。

窠(か)に霰(あられ)。「霰」は今ではもっぱら「市松」といいますが、これは江戸時代の役者の名前から取られたもので、古くは「霰」や「石畳」などの呼び名があります。

モチーフと構成要素

有職文様は一般的に、丸や菱などの幾何的な要素と、動物や植物など事物の要素からなっていることが多いです。

幾何
・丸、菱、襷(斜めの線)
・亀甲(六角形)、霰(四角形)、鱗(三角形)、立涌(たてわく。波線)など

事物
・動物:鳳凰、鴛鴦(おしどり)、鶴などの鳥、蝶
・植物:桐、竹、菊、松、梅、桜、藤、牡丹、唐草 など
・自然物:雲、波 など

一般的な有職文様

以下では、比較的目にすることの多い有職文様を、画像とともにご紹介します。

浮線綾文(ふせんりょうもん)

画像出典:河辺正夫 編『日本装飾大鑑』4,芸艸堂,大正4. (国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/966515])

「浮線綾(ふせんりょう)」とは、元々は文様の名前ではなく織り方を指す言葉でした。当時の貴族の装束は織のものが中心で、そこにこうした文をき織りで織り出すことが多かったため、そのような織物を「浮線綾」と呼びました。転じて「浮線綾文」は文様の名前になったといわれます。

中央から十字状にパルメットや花のような文様を配し、四方に花・あるいは蝶の尾のような文様が置かれ、全体で円の形になっています。

唐花文、華文から派生したものといわれますが、それ以外の言説も根強くあります。また「臥蝶丸(ふせちょうのまる)」と呼ばれることもあり、当時用いられた蝶の文様と似ていることからそう呼ばれ始めたとする説があります。

有職の蝶文様。(画像出典:『源氏物語絵詞』[2], 和田正尚 模写, 明治44[1911]. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/2590781])
菱にして使ったりもします。
松皮菱の上に浮線綾文が乗っています。華やかな錦織ですが、文様としては有職のものといえます。

植物文様

ものすごく曖昧な感覚になってしまいますが、以下でご紹介する以外にも「和柄としてよく見る植物」はおおよそ用いられていました。

「菊丸(きくのまる)」。(画像出典:河辺正夫 編『日本装飾大鑑』4, 芸艸堂, 大正4. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/966515])
現代の袋帯。同じく菊で丸をつくったもの。袋帯で金糸が使われていますが、文様としては「有職文様」の系譜にあるものといえるでしょう。
菊唐草の襦袢地と、紋紗のコート地。有職らしい、地紋の穏やかな風情があります。
菊の花を菱の形にして並べた「菊菱」。(画像出典:徳力富吉郎 編『名作能衣裳』. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/13578539])

八藤丸(やつふじのまる)。周囲を囲んで円を作っている部分が藤でできており、合わせて8つの藤からなっていることからこう呼ばれます。(画像出典:河辺正夫 編『日本装飾大鑑』4, 芸艸堂, 大正4. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/966515])
袍(ほう)には浮線綾文、指貫(さしぬき, 袴のようなもの)には八藤丸。(画像出典:広重『源氏物語五十四帖 空蝉』, 嘉永5. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/1308827])
藤巴(ふじともえ、三藤丸[みつふじのまる]とも)。(画像出典:河辺正夫 編『日本装飾大鑑』4. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/966515](左))
藤立涌の装束。(画像出典:『源氏物語絵詞』, 和田正尚 模写. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/2590781])

桐は今でも由緒ある文様としてよく目にします。

画像は桐牡丹唐草の能衣裳です。(画像出典:徳力富吉郎 編『名作能衣裳』. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/13578539])
竹、鳳凰や麒麟などと組み合わせた「桐竹鳳凰麒麟」は天皇の袍に用いられました。古代中国の伝説に由来する、めでたい文様です。

七宝の地紋に松丸(まつのまる)を載せた袋帯です。松や竹、梅は吉祥文様としてもよく目にします。
こちらは松立涌(まつたてわく)の袋帯。
梅立涌(左)、桜立涌(右)。(画像出典:平安文様素材集 綺陽堂 [http://www.kariginu.jp/sozai/])

葵唐草。葵の葉は家紋などにもよく使われます。

小葵

小葵文(こあおいもん)は有職文様の代表的なものの一つ。ゼニアオイという花をモチーフにしているといわれますが、西方の「パルメット」の影響も指摘されています。
アロイス・リーグル 著 ほか『美術様式論』より。
小葵文。こちらは振袖の地紋の写真です。

花・唐花
※何の植物かわからないもの、特定の植物を指し示さない抽象化されたものもあり、「唐花」や単に「花」などと呼ばれます。

(画像出典:河辺正夫 編『日本装飾大鑑』4, 芸艸堂, 大正4. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/966515])
唐花立涌。
唐花菱。抽象的ですが、「なんだか花っぽい」というのは感じられます。

窠(か)文
弧をいくつか組み合わせたものです。中には花菱などが置かれるのが一般的です。

窠(か)は鳥の巣を表す漢字。また、実の断面に似ていることから木瓜(もっこう)とも。
御簾帽額(みすもこう)。窠文と蝶がよく用いられたとのことです。(画像出典:『源氏物語絵詞』[2], 和田正尚 模写, 明治44[1911]. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/2590781])

その他の植物文様

竜胆丸(りんどうのまる)。竜胆以外にも、色々な植物が使われます。(画像出典:平安文様素材集 綺陽堂 [http://www.kariginu.jp/sozai/])
海松丸(みるのまる)。海松(みる)という海藻を意匠化したものです。(画像出典:河辺正夫 編『日本装飾大鑑』4, 芸艸堂, 大正4. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/966515])
宝相華唐草と思しき装束。下には三重襷や菱文も見えます。(画像出典:広重『源氏物語五十四帖 空蝉』, 嘉永5. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/1308827])

動物

「有職文様」においては種類こそ多くありませんが、登場頻度は高いです。

鳳凰・尾長鳥
吉祥文様としても名高い瑞鳥です。「鳳凰」と「尾長鳥」の区別は明確ではありません。古くは鳳凰について「皇族のもの」という意識があったようで、「鳳凰」とするのは憚られたため似たような文様を「尾長鳥」とした、という説もあるようです。

振袖の地紋。植物文様(菊、桐、竜胆[笹竜胆?])と向鳳凰菱(むかいほうおうびし、中央下)が菱の中に織り出されています。
花唐草向鳳凰菱。うっすらと地文様の七宝も見えます。
鳳凰牡丹唐草文。金銀で華やかに見えますが色数は抑えられており、有職らしい穏やかさもあります。


鶴も非常によく登場します。吉祥文様としても用いられます。

向鶴丸(むかいつるのまる)。(河辺正夫 編『日本装飾大鑑』4, 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/966515])
雲とともに描いた「雲鶴(うんかく)」。非常にめでたい文様として尊ばれました。(画像出典:平安文様素材集 綺陽堂 [http://www.kariginu.jp/sozai/])

これら以外にも鴛鴦(おしどり)や鸚鵡(おうむ)などが用いられました。さらに、何の鳥かが明確でないものもあり、「唐鳥」や単に「鳥」と呼ばれます。


華やかで美しい蝶は、当時から愛されていました。鈴虫や松虫など他の虫も親しまれていたのですが、装束や調度品の文様として用いられた虫は蝶くらいだったようです。

(画像出典:『源氏物語絵詞』[2],和田正尚 模写. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/2590781])
蝶を菱に見立てて用いたもの。(画像出典:河辺正夫 編『日本装飾大鑑』4. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/966515])
「向蝶丸(むかいちょうのまる)」(画像出典:河辺正夫 編『日本装飾大鑑』4. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/966515])

その他の事物文様


縁起のよいものとして好まれました。

雲七宝
雲立涌。(画像出典:広重『源氏物語五十四帖 桐壷』. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/1308825])

このような形の波文様(いわゆる「青海波」)も有職装束に用いられることがあったようです。

※「青海波(せいがいは)」という呼び名は舞楽の題目の名から取られたものですが、波をパターン化した文様自体は世界各地で古代から用いられています。

幾何文様

丸や菱など、図形を中心とした文様です。シンプルなパターンの連続のため地文様に多く用いられますが、上の植物や動物と組み合わせたものもよくみられます。

繁菱(左)と遠菱(右)(編集部作成)。一般に若年者ほど文様が大きく密集しているものを、年長者ほど文様が小さく離れているものを着用したといいます。
幸菱(さいわいびし)。菱と菱の間の襷の交点に小さな菱を置いて繋げたもの。(画像出典:平安文様素材集 綺陽堂 [http://www.kariginu.jp/sozai/])
三重襷(みえだすき)。菱の間に三重の襷をかけているように見えることから。斜めに続く線のことを「襷(たすき)」と呼びます。(画像出典:豊国『江戸名所図会 十 隅田川 在原業平』. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/1311051])

※「襷」
斜めに繋がるものを「襷(たすき)」と呼ぶのですが、派生したいろいろなパターンがあります。

鳥襷(とりだすき)。(画像出典:平安文様素材集 綺陽堂 [http://www.kariginu.jp/sozai/])
花襷。少し見づらいですが、花唐草のような文様が斜め線(襷)の中に菱型ではめ込まれています。
小葵文。こうしたものも「花襷」の仲間といって差し支えないと思われます。

※蜀江文
「花襷」の仲間とされるものとして、「蜀江文」と呼ばれるものも含まれる場合があります。確かに花が襷繋ぎになっているので、「花襷ではない」とはいえないでしょう。

現代からみて一般的に「蜀江錦」と呼ばれているものの多くは明(1368-1644)の時代のものですが、古くは正倉院の時代には既に「蜀江錦」は日本に入ってきていたので、この辺りの分類がややこしいことになっています。

七宝(しっぽう)
一般的に「七宝文様」というと、1つの円に4つの円をそれぞれ円周の4分の1ずつ重ねて繋げたものを指します。

花七宝。あるいは花襷と呼んでもよいかもしれません。

七宝は古くは「輪違(わちがえ)」と呼び、円の一部を重ねて繋げたもの全般を指しました。そこから4つの円を繋げたものを「四方繋ぎ(しほうつなぎ)」と呼び、そこから「七宝繋ぎ(しっぽうつなぎ)」となったとする説があります。

「輪違」の一種。一つの円に対して隣接する3つの円を重ねたもの。(画像出典:徳力富吉郎 編『名作能衣裳』. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/13578539])

一つの円が次の円に繋がって終わりがないことから、縁起のよい吉祥文様としても非常によく用いられます。

七宝花菱

亀甲

亀そのものは「有職文様」として用いられた例はあまりありませんが、その甲羅を文様化したものは縁起物としても愛され、「有職文様」としても広く用いられました。

立涌
たてわくと読みます。水が涌く様子に喩えた名前ですが、忍冬唐草・パルメットなど西方由来の植物文様の影響も指摘されます。

唐花立涌
鳥立涌。(画像出典:徳力富吉郎 編『名作能衣裳』. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/13578539])
梅立涌。(画像出典:平安文様素材集 綺陽堂 [http://www.kariginu.jp/sozai/])
忍冬唐草文。飛鳥時代頃には既に日本に渡来していたとのこと。

おわりに

代表的な「有職文様」とされるものをご紹介してきましたが、ここでは語りつくすことが不可能なほど「有職」の世界は奥深く、長い歴史を持つものです。もし一人でもその世界に興味を持っていただけたなら幸いです。

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主要参考文献

池修『有職の文様』光村推古書院, 2016年.
大舘大學「有職文様における意匠生物の特徴(予察報告):四足動物の忌避と在来種の敬遠」[http://hdl.handle.net/2115/53591]
佐藤全敏「さらに進む『国風文化』の見直し」『山川歴史PRESS』(19), pp.1-6. 2024年.
長崎巌『きものと裂のことば案内』小学館, 2005年.
八條忠基『有職装束大全』平凡社, 2018年.
八條忠基『有職文様図鑑』平凡社, 2020年.

「有職故実」平凡社『改訂新版 世界大百科事典』.
「日本の文様の源流『有職(ゆうそく)文様』」政府広報オンライン. [https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202212/202212_02_jp.html]
「有職織物・有職文様(ゆうそくおりもの・ゆうそくもんよう)」正倉院展用語解説. [https://shosointen-glossary.narahaku.go.jp/yusoku-orimono_yusoku-mon-yo/]
「浮線綾文様について」日本服飾史. [https://costume.iz2.or.jp/column/474.html]

26.01.05
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