きもの

きものお手入れ② 洗い

【目次】
 1. そもそも洗濯とは?
  1-1.「洗う」とはどういうことか
  1-2. 家での洗濯
  1-3. きもの
 2. きものは家で洗濯できない?
  2-1. 摩擦
  2-2. 洗剤
  2-3. 水
 3. 「お手入れ」は何をしているの?
  3-1. 丸洗い
  3-2. 洗い張り
  3-3. シミ抜き
  3-4. 撥水・ガード加工

※1の内容は「洗濯」についての一般論で、きもののクリーニングについての話とは一致しない場合もあります。前提知識として知っておくと便利ですが、不要であれば読み飛ばしてください。
※記事内にいくつか図がございますが、分かりやすさのための模式図であり、実際とは多少異なる場合があります。ご了承ください。

1. そもそも洗濯とは?

1-1.「洗う」とはどういうことか

洗濯とは、衣類の汚れを落とし、きれいにすることです。一般的には、水を使うものと有機溶剤を使うものがあります。

一般的な家での洗濯で落とすことのできる汚れは、大きく分けて
 ①乾性(ホコリや糸くず、砂など)、
 ②水性(汗やお茶など)、
 ③油性(ファンデーションや食用油、皮脂など)
の3つです(他にもありますが、絶対量としては少なく、洗濯では落ちにくいもののため、一旦ここでは割愛します)。

そして汚れに対するアプローチの仕方として、汚れを物理的に動かして落とす「物理的作用」と、汚れを化学的に溶かしたり遊離させたりする「化学的作用」があります。

ごみや砂は固体のため、軽い汚れであれば表面に付着する程度で留まっていることが多く、払う、流す、など物理的に動かすことで大部分は落とせます。残りの2つは液体をともなって生地の内部にまで浸透してしまうため、表面を払う程度では落とせません。そのため、水や洗剤、溶剤などを使い、浸透してしまった成分を溶かしたり浮かせたりしてから洗い落とすのです。

1-2. 家での洗濯

現在最も一般的な洗濯は、水と洗剤を使った水洗い(湿式洗濯)でしょう。家庭用洗濯機で行われるもののほとんどはコレになります。

それぞれの汚れに対してどのような力が働いているかというと、
 ①乾性:水の中で動かして物理的に落とす
 ②水性:水に溶かして水性の汚れを落とす
 ③油性:洗剤(界面活性剤)で水に溶けない油性の汚れを遊離させる
という3つのアプローチが行われているのです。

①乾性:物理的作用(水の中で動かして物理的に落とす)

②水性:化学的作用(水に溶かして水性の汚れを落とす)

③油性:化学的作用(洗剤(界面活性剤)で水に溶けない油性の汚れを遊離させる)

1-3. きもの

「なら着物にも……」と思われる方もいるかもしれませんが、そうも上手くいきません。着物の多くは絹(シルク)でできており、絹の性質上、家で洗濯すると生地を傷めやすいのです(詳しくは後述)。

そのため、現在きもののお手入れで一般的に使われているのは、この「水洗い」ではなく、「ドライクリーニング」という手法になります。水を使わないものを「乾式洗濯」や「ドライクリーニング」といい、水ではなく有機溶剤を使い、溶剤に汚れを溶かし出して落とします。特に油性の汚れを溶かして落とすのが得意です。その化学的性質のため絹の繊維に染み込みにくく、表面の油性汚れのみを落とすので絹の生地を傷めにくいのも特長です。

溶剤を使ったドライクリーニングは油溶性の汚れを落とすことに長けていますが、逆に汗や飲み物など、水溶性の汚れを落とすことはあまり得意ではありません。また、実際の汚れは色々な成分が混合して含まれていたりするので、水を使ったクリーニングやシミ抜き等が必要な場合もあります。

一言にクリーニングといっても、種類があるのがわかっていただけたかと思います。溶剤か水かという違いをベースにしつつ、行う作業や使用するもの、工程等に合わせて、実際のお手入れには様々なプランがあります。

2. きものは家で洗濯できない?

端的に、絹のきものは、家で洗濯しないほうがよいです。特に、洗濯機に入れて普通の洗剤で洗うと、縮んだり、生地が傷んでしまったりする恐れがあります。特に、刺繍の入っているもの、金彩が施されているものなど、モノによっては取り返しのつかない事故を引き起こす場合さえあります。
※木綿や麻、化学繊維などのものについては、その限りではありません。

絹のきものを家で洗うべきでない理由は、主に3つほど考えられます。

2-1. 摩擦

絹糸は、さらに細い繊維が集まってできており、水で柔らかくなると極細の繊維が切れやすくなります。

出典:『京都府織物指導所研究報告』(19) 1985年 ※極細の繊維「フィブリル」の集まった構造の「フィブロイン」。

一般的な洗濯機は、洗うにもすすぐにも脱水するにも、とにかく回転させますから、その際に擦れた絹糸から繊維の一部が切れて毛羽立ちます。絹糸全体が切れるわけではないので直ぐに破れたりするわけではありませんが、絹の艶やかな風合いが損なわれてしまいますし、弱った部分には確実にダメージが蓄積していきます。

出典:岡川・野田(1985)、荻原清治(1955)
出典:北田(1970)

2-2. 洗剤

一般的な衣類用洗剤は塩基性(アルカリ性)のものが多くなっています。塩基性の洗剤は、一般に油脂に対する洗浄力が強いですが、同時にタンパク質を分解する作用もあります。それは絹についても同様です。絹の主成分はタンパク質ですから、これを一般的な塩基性の洗剤で洗うと繊維を傷めてしまい、着物の寿命を縮めることにもなってしまいます。絹だけでなく、毛織物など動物性の繊維はタンパク質でできているものが多いため、塩基性の一般的な衣料用洗剤は適さないことが多くなっています。

この欠点に関しては、「おしゃれ着用洗剤」などとして販売されている中性洗剤である程度の対策は可能ですが、他の点まで解決できるわけではありません。

2-3. 水

絹繊維であるフィブロインは前述の通り極細の「フィブリン」の集合体で、液体の水が浸透してしまうと繊維が横に膨らみ、膨らんだ分だけ生地が縮んでしまいます。

出典:『京都府織物指導所研究報告』(19) 1985年 ※極細の繊維「フィブリル」の集まった構造の「フィブロイン」。

この「水を含んで縮む」という現象自体は、繊維の内部に水を含みやすい他の天然繊維でも起こりますが、絹の高額さであったり、他のデリケートさも含めて、特に注意すべきとされています。

縮緬や絽の縮み幅が特に大きく、「縮緬の礼装を洗濯機で洗ったら寸法が合わなくなった」といった事故が昔は多発しました。特に洗濯機が普及し、また洋装化によってきものがハレの衣服となった戦後、きちんとした知識が浸透するまではよく起こっていたようで、特に高価なフォーマル着が中心だったこともあり、問題となりました。今は減ったようですが、昔は金彩に水溶性の糊が使われており、金糸がボロボロになるとか、箔が取れるとか、そんな事故も起こっていたと聞きます。

中性洗剤で優しく手洗いすることで、2つの弱点はある程度はカバーできるかもしれませんが、水による縮みや劣化については家での対策が難しいため、大事なものであるなら避けた方が無難といえます。どうしても、という場合は自己責任で行うようにしてください。

 3.「お手入れ」は何をしているの?

「きもののお手入れはどうしてこんなに高いの?」という疑問をよく耳にします。作業工程もわからない状態で、ただ「お金と時間がかかる」といわれても、納得できる方は多くないでしょう。

きものの手入れの値段が高いのは、デリケートなきものを守るために、一点一点現物に合わせて作業を行うのが基本のためです。お客さんにとって大切なものですし、また高額な一点モノが多く、傷んでしまったら取り返しがつきません。時間や値段は、そうした大切なものを扱う際の安全確保のためのコスト、といえるのではないかと思います。

そもそも一般的な洋服のクリーニングと比べると、行える場所の絶対数も少なく、機材や作業者の技術も必要になります。専門性が高く、供給も限られてしまうことから、どうしてもコストと時間がかかってしまうのです。

ここでは代表的なお手入れのメニューや、具体的にどんな作業をしているのか、どんな特徴があるのか、などについてご紹介します。

この記事に先立ち、いくつかの悉皆業者さんに話をうかがいましたが、実際の細かい内容や工程は業者さん・職人さんによって異なる場合があります。あくまで「大枠のイメージ」に過ぎないことはご留意ください。

3-1. 丸洗い(溶剤)

※こちらはイメージです。使うものは業者さんにより様々で、洗濯機を使わず手作業のみで行うところもあります。

主に石油系の溶剤を使い、きものをそのまま丸ごと洗います。「丸洗い」「生洗い」「京洗い」など呼び方は色々ですが、最も一般的な「水ではなく溶剤を使い、きものを解かず洗濯するもの」と理解していただければと思います。油溶性の汚れを落とす効果が高く、日常的に付着しやすい化粧品や皮脂、食べ物の油などを落とすのに適しています。

現在絹のきものを洗う際には、そのまま洗える利便性から「洗い張り」よりもこちらが主流になりました。今は洗濯機も多くなっていますが、最初から全て機械の場合や、先に気になる部分を溶剤で手洗いしてから「すすぎ」として機械を使う場合、最初から最後まで手洗いの場合など、やり方は業者さんによって様々です。

ただし水溶性の汚れを落とすことはあまり得意ではないので、あらゆる汚れを完全に落としきれるわけではありません。適宜「シミ抜き」「汗抜き」等の水を使うものを活用していくのがよいでしょう。また、特に袷のきものは裏地がついているので、生地の裏面の汚れや、奥深くまで浸透してしまった汚れなどは落としきれない場合もあります。

最近では、ドライクリーニングに用いる溶剤の中に、水溶性の汚れを落とすことのできる「汗抜き剤」を混ぜて、油と水溶性の汚れを同時に洗うところもあります。

3-2. 洗い張り

一旦着物を反物の状態に戻して洗います。反物の状態に解き、汚れを洗い落とします。今では、反物の状態にしてから一旦溶剤で洗い、次に水を使ってきれいにする、という工程が多くなっています。

水洗い後のすすぎの工程。

水を使うと縮んでしまうことが多いので、それを「湯のし」といった作業できれいに伸ばします。

「丸洗い」では落としきれないような汚れ(水溶性のもの、奥深くまで浸透してしまった汚れなど)も、溶剤と水の両方で、生地の表裏両側から洗うことで落としやすくなっています。

ドライの丸洗いが多くなった現在では、水溶性の汚れも含めて完全にリセットしたいときや、仕立て直すときなどに使われます。

※場所によっては溶剤と汗抜き剤とで水を使わず洗い張りをする場合もあるようです。とはいえ、丸洗いよりも洗浄力が高く、汚れも「リセットする」という意味合いなのは、基本的に同じといってよいと思います。

3-3. シミ抜き(必要に応じて溶剤、水、漂白剤など)

ここでは溶剤を吹きかけて汚れを溶かし、生地の裏の吸引機で溶剤ごと吸い取っています。

「食事をこぼしてしまった」「油がはねた」など、目立つ汚れをきれいにします。汚れの状態を見ながら適した方法を見極め、対処していきます。

主に溶剤や水を使いますが、酵素や漂白剤など、他のものが必要な場合もあります。設備や技術が必要でコストもかかるうえ、工程によっては生地へのダメージも大きいため、変色してしまう前の早めの対処がオススメです。専門性が高く、個別に作業を行う必要があるので、コストは高くなり、時間もかかる傾向にあります。また必要な作業工程によって値段も変わる場合があります。

※汗抜き:
汗や飲み物などの水溶性の汚れに。昔ながらのオーソドックスなやり方としては、水を使った手作業になります。少量の水を吹きかけて汗の成分を溶かし出し、その水を吸い取ることで汚れを落とします。

※色抜け・焼け直し:
シミを落とした後に変色や退色が見られる場合には、少しずつ染料を乗せながら、周囲と馴染ませていきます。

生地の染め替えや柄足し、刺繍などで変色した部分を隠したり、目立たなくしたりすることも場合によっては可能です。プロに相談すれば、案外なんとかなることもあります。

3-4. 撥水・ガード加工

薬剤に浸したり、薬剤を吹きかけたりして、糸に水をはじく成分をコーティングします。

昔は生地表面をまるまる覆い、カッパのように水を通さなくする「防水加工」がありましたが、今はほとんどなくなっています。今の「撥水加工」は生地を構成する繊維の表面を薄く覆うだけで、糸の間の隙間は埋まらないため、生地のもつ通気性自体はほぼ損ないません(さすがに「一切変わらない」と言い切ることはできませんが、ほとんどの人は気付かないレベルといってよいと思います)。

原理としては下図のようなイメージです。気体の状態と違い、液体の水は基本的に一定数の水分子が集まった滴を形成します。糸の隙間よりも小さい水蒸気(湿気)は通ることができますが、隙間よりも大きい一般的な水滴は通ることができません。結果として、通気性・透湿性を損なわないまま撥水効果を発揮するのです。

ちなみに、水ほどではないにせよ、繊維表面をコーティングする関係上、他の汚れにも一定の効果を発揮します。生地に付着するのを防げるわけではないですが、コーティングのおかげで繊維内部まで染み込みにくくなるので、ガンコな汚れになりにくく、クリーニングの際に汚れを落としやすくなる効果もあったりします。

とはいえ、コーティングがあるからといって、過信は禁物です。着用頻度や着用時の状況、お手入れやクリーニング等々により、コーティングの効果も少しずつ落ちてくる場合があります。効果が弱まったと感じたら、撥水加工をかけ直すのも手です。


参考文献等
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・「シルクナレッジ2. シルクの光沢感」THE SILK. [https://tanko.or.jp/2020/12/01/7496]
・「防虫対策」, 東京都クリーニング生活衛生同業組合. [https://www.tokyo929.or.jp/column/keep/1.php]

25.11.28
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