きもの色合わせ①〈平安時代の重ね色目:冬〉
はじめに
きものライフをもっと豊かに楽しんでいただけるよう、カラーコーディネートの参考にもなる「色合わせ」をご紹介していきます。まずは温故知新、古いモノから新しいことを学んでいきたいので、有職の色合わせ、特に冬のものから扱ってみたいと思います。
色やその合わせには諸説ある場合もあります。また、当時の装束と今のきものは形も着方もかなり違いますから、あくまでカラーコーディネートの参考程度にご覧いただければ幸いです。
そもそも、今のきものにそのまま当て嵌めるとやや強めな色遣いになることが多いため、少し薄め・淡めの色合いにするなど、適宜アレンジすると使いやすいのではないかと思います。当時の人々も自分なりの感性で色合わせを生み出していたようですから、お好きなものをイメージした色合わせを創作してみるのも楽しそうです。
冬の色目
年も明けましたので先取りして「春」を扱いたいところですが、旧暦と今の暦(太陽暦)にはズレがあり、季節感についても同様です。ということで今回は「冬」の色合わせをご紹介します。……ちなみに、2026年の旧正月は2月17日(火)です。
氷

白と青みがかった灰白色を合わせたものです。透き通った冬の情景が浮かびますね。
今回は「白練(しろねり)」(練絹そのままの色)と「白瑩(しろみがき)」(絹布をヘラ等で磨いて光沢を強くしたものの色)を使っています。
氷重(こおりかさね)

白に、やや赤みのある薄い黄色を重ねたものです。上の「氷」と同じく淡い色合いで、汎用性はとても高そうです。
先ほどと同じ「白練(しろねり)」に、同系で赤みと黄色みを少し増したものを重ねました。
枯色(かれいろ)

淡青(黄がかった緑)と黄色で、冬の枯れた野原を表現した色合わせです。

苔(こけ)

香色(こういろ)と二藍(ふたあい)を使い、苔を思わせる色合わせ。
「香色」は香辛料の丁子で染めた茶色、またはそれに似せた色。
「二藍」は藍で染めた上に紅花を重ねて染めたもの。明るい紫。(※藍と紅花の濃さ次第ではもっと赤みがかった色にもなります。)

雪の下

「紅梅(こうばい)」と白の色合わせです。
梅は早く咲き始めるため、咲いた後にも雪が降ることがありました。寒さに負けない力強さをたたえ、「雪中君子」という異名もあります。そんな梅の花に雪が積もった情景を表現しています。

椿

黄がかった濃い赤と蘇芳(すおう、紫と茶色がかった赤)。かなり重たい色合わせですが、赤を中心とした同系色の合わせになっていて統一感があります。
椿の花びらの色、黄色い椿の花蕊といった複雑な色彩が表現されているように感じます。

コーディネートしてみると…
上記のような色合わせをいくつか組み合わせた、コーディネートのイメージ図を作ってみました。
苔+氷重


氷重+枯色

椿+雪の下

氷重+雪の下+椿

おまけ:色いろいろ
当時の色合わせには、
① 一枚の装束の表裏の色合わせ ……重ね色目
② 重ね着の色合わせ ……襲(かさね)色目
③ 織物の経糸と緯糸の色合わせ ……織り色目
などがあり、さまざまな色合わせを用いて衣服を彩っていたのです。
※襲(かさね)色目:
主に下に着る単、五衣(その上に着る装束)の色合わせです。さらにその上に表着、唐衣や小袿を着用しました。衣服の端がのぞく、慎ましやかなオシャレといえるでしょう。こちらはまた別の機会に。
ところで、今回ご紹介した「重ね色目」やそこで使われている色は、あくまで「例」であることにはご留意いただきたく思います。文献の記述から復元されたものであり、正確に再現されているとは言い切れません。
というのも、残っている染織品は色褪せてしまっていて、当時の文献に残る「〇[量]の△△[染料]で染めた色」といった記録から再現するしかなく、さらに再現しようとしても染色環境や素材によってブレが生まれるためです。染料の作り方如何や、色を定着させる「媒染」で何を使うかによっても色合いはかなり変わってきます。そもそも当時の人だって正確にカラーコードを指定して色を作っていたわけではありませんから、当時「〇〇色」と呼ばれていたものの中でも同様のブレは生じていたはずです。
さらには、同じ名前の色合わせでも、文献によって異なる色合わせが記載されていることもあります。これに関しては、「〇〇をイメージした色」の解釈の多様性といえます。当時の風流人は思い思いの解釈で色合わせを楽しんでおり、それぞれが別個に記述されたのでしょう。
「色の名前」は一つのデジタルなコードを指すものではなく、「現実の事物の切り取り方の範囲」であり、その切り取り方は文化と強く結びついています。
こういった諸事情がありますから、まして今のコンピュータ上の「カラーコードで何にあたるか」は当然わかりません。ゆえに掲載される媒体によって色のブレも生じます。ちなみに閲覧環境によっても見え方は変わるので、その辺りはおおらかにご覧いただければ幸いです。
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主要参考文献
・城一夫『時代別 日本の配色事典』パイ インターナショナル, 2020年.
・八條忠基『有職の色彩図鑑 : 由来からまなぶ日本の伝統色』 淡交社, 2020年.
・吉岡幸雄『日本の色辞典』紫紅社, 2000年.
・綺陽装束研究所 [http://www.kariginu.jp]
・日本服飾史「色彩と文様」[https://costume.iz2.or.jp/color]
・政府広報オンライン「自然の移ろいを表す『かさねの色目』」[https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202010/202010_06_jp.html]
・伝統色のいろは [https://irocore.com]
