季節

季節を楽しむカラーコーデ 春② ~桜と春の花々~〈平安の重ね色目・晩春〉

はじめに

きものライフをもっと豊かに楽しんでいただくため、参考として「昔の人々のカラーコーディネート」をご紹介します。

前回に引き続き、出典は平安時代・有職の「重ね色目」です。当時の風流人たちは、身の回りの植物や自然物をイメージした色合わせを自分なりの感性で考案して楽しみました。流行や自分の好みに合わせて適宜アレンジしたり、自分で創作してみても楽しそうです。

※本来は装束(特にカジュアルなものである狩衣など)の表と裏地の色合わせです。今でいうきものと裏地(八掛など)の組み合わせに当たるでしょうか。ただ、ここでは単に「色の組み合わせ」として紹介いたしますので、カラーコーディネート全般の参考程度にご覧いただければと思います。

バラ科のサクラは、言わずと知れた春の花の代表格です。桜をイメージした色の合わせはとても多く、さまざまな文献にさまざまな記述があります。

今でこそ「桜」というと薄ピンクのような色(画像左上)をイメージする方が多いのではないかと思いますが、花を表現するにあたって「写実的な色しか使ってはいけない」という決まりはありませんし、そもそも「桜の花の色」自体も本当は多様なのです。それをさらに各人が思い思いに表現した結果、てんでバラバラな色合いになったのでしょう。

「なされた解釈がたくさんある」ということはつまり、桜がどれだけたくさんの人に愛でられてきたか、という文化的蓄積の証左ともいえます。実はこれまでも同じ花などに対して「諸説ある」というものもあったのですが、一旦割愛していました。が、桜に関しては多すぎること、色も様々なことから、発見できたものをまとめて掲載してみました。

奈良・吉野山のヤマザクラ。江戸時代後期頃までは、「サクラ」というと主にヤマザクラを指す場合が多かったとか。

ヤマザクラをはじめとした自然品種のサクラは遺伝的に多様であり、株ごとに色もそれぞれ異なります。全く同じ人間がいないのと同じ理屈です。

ちなみに、一輪の花の中でも [咲き始め→満開→散り際] といったように、少しずつ色は変化していきます。同じ一輪の中でも変化していくわけですから、株が違ったり品種が違ったりすれば、色や見た目が全く異なるのも「さもありなん」といったところです。

あるいは、同じ場所・同じ花であっても、時間や時期によって異なる表情を見せてくれます。こうした絵画や写真を見ると、青や緑のような色を使った人の気持ちも分かるような気がします。

川瀬巴水「小金井の夜桜」国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/2586550]
立祥(二代目歌川広重)『東都小金井さくら』. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/1308754]
葉桜。

躑躅(つつじ)

左は「躑躅(つつじ)」[蘇芳/萌黄]、右は「紅躑躅(くれないつつじ)」[蘇芳/薄紅]の色合わせです。色とりどりのツツジの花や葉の複雑な色合いを感じられます。

ツツジ目ツツジ科に属する植物の総称で、日本でも古くから愛されてきました。白からピンク、紫や赤など様々な色の花をつけます。古くは奈良時代の『出雲国風土記』『万葉集』などに記述があり、当時すでに園芸目的で栽培されていたようです。江戸時代には園芸品種が爆発的に増え、近代以降には欧米の「アザレア」の呼び名でも知られています。

桃(もも)

「桃」(淡紅/萌黄)の色合わせです。桃は梅や桜と違い、花が咲くのとほとんど同時に葉も出てきます。そんな光景の、淡いながら芯のある紅色と萌黄のコントラストが「桃」のイメージされるところなのでしょう。

モモは中国内陸・黄河上流地域が原産といわれるバラ科スモモ属の植物です。日本でも弥生時代の遺跡から出土、古くから食用・観賞用、また魔除けの力があると信じられたことから儀礼用としても用いられてきました。

とはいえ現代のモモは近代に入ってきたものをさらに品種改良したもので、当時の実はもっと小さく甘みも弱いものだったといいます。今よりも観賞目的の比重が大きかったと考えられています。

山吹(やまぶき)

左から「山吹」「裏山吹」「青山吹」といった名前の色合わせです。黄色を中心にしつつ、花の赤みのある黄色を表現したもの、葉の中に咲く花を表現したものなどといわれています。

バラ科の低木で、春に黄色の花を咲かせます。万葉集にも登場し、しばしば恋の歌に詠まれます。室町時代には園芸品種の「ヤエヤマブキ(八重山吹)」が存在していたことが知られており、とても身近な植物でした。

藤(ふじ)

薄色(薄紫)と萌黄(黄緑)で藤の花と葉をイメージした色合わせです。

藤はマメ科・蔓(つる)性の低木で、晩春(~初夏)に長く垂れ下がる房状の淡紫色の花を咲かせます。『万葉集』では林野に原生する花が詠まれ、平安時代頃には貴族の庭園の中で栽培され愛好されました。栄華を極めた「藤原氏」をはじめ、公家社会では藤の紋章もよく用いられました。

そうした華やかなイメージとは裏腹に、蔓のほうには貧しく粗野なイメージもありました。当時の庶民は藤などの身近な蔓からとった繊維で衣服を作っていました。丈夫だが粗く固い衣服であったことから「藤衣(ふぢごろも)」は貧しさを意味する言葉ともなりました。

同じ植物の花と蔓でこんなにもイメージが違うのもなんだか面白いですね。

牡丹(ぼたん)

牡丹は中国原産・ボタン科の低木で、古くから園芸・栽培されてきました。中国では「花王」「百花の王」などとも呼ばれ、「詩仙」と称される詩人・李白が玄宗皇帝と楊貴妃のロマンを牡丹にたとえたように、隋から唐時代にかけて特に熱狂的に愛好されました。

日本には奈良時代頃に渡来、平安時代の宮廷などでは観賞用に栽培され、『枕草子』にも描写されています。牡丹は「富貴の花」との別名もあり、幸運・繁栄・名誉の象徴とされ、衣服や工芸品の意匠にも多く用いられてきました。江戸時代の園芸ブームではきわめて多くの品種が生み出され、愛されました。

おまけ:絵画にみる春のコーディネート

尾形月耕『源氏五十四帖 八 花宴』国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/1305571]

『源氏物語』を題材にした明治時代の錦絵です。光源氏と朧月夜が宮中で催された「桜花の宴」で出会う場面で、桜をイメージした色合いが多く使われています。朧月夜は快活な恋多き女性ですから、そんなイメージを落とし込んだのでしょう。散りばめられた桜の文様も可愛らしさを演出しています。

楊洲周延『四季の詠 隅田堤のさくら』明治27年. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/1302689]
楊洲周延『四季の詠 隅田堤のさくら』明治27年. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/1302689]

薄紫・江戸褄模様のきもの。裏地やインナーの濃紫や白でなじませ、裾や袖口からのぞく赤色がワンポイントで華やかさを添えています。半襟の桜の文様は、淑やかながら目を引きます。

尾形月耕『小町桜の精』国立国会図書館デジタルコレクション[https://dl.ndl.go.jp/pid/9369955]
歌舞伎の演目『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)』に登場する桜の木の精を描いたもの。
渓斎英泉『花見帰り隅田の渡し』 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/1305611]

楊洲周延『やまと風俗 上野清水ヨリ不忍の眺望』明治27年. [国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/1303002]
楊洲周延『倭風俗墨堤の花』明治26年. 国立国会図書館デジタルコレクション [https://dl.ndl.go.jp/pid/1307870]

青~紫系でカッコよくまとめたきものに襦袢と帯揚の赤が彩りを添え、下駄の黄色や黄緑も春らしさと可憐さをプラスしています。

参考文献

・城一夫『時代別 日本の配色事典』パイ インターナショナル, 2020年.
・八條忠基『有職の色彩図鑑 : 由来からまなぶ日本の伝統色』 淡交社, 2020年.
・吉岡幸雄『日本の色辞典』紫紅社, 2000年.

・綺陽装束研究所 [http://www.kariginu.jp]
・伝統色のいろは [https://irocore.com]
・日本服飾史「色彩と文様」[https://costume.iz2.or.jp/color]
・政府広報オンライン「自然の移ろいを表す『かさねの色目』」[https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202010/202010_06_jp.html]
・国立遺伝学研究所「遺伝研のさくら」 [https://www.nig.ac.jp/koukai/koukai2018/sakura/index.html]
・国立国会図書館 「描かれた動物・植物―江戸時代の博物誌― 第二章 独自の園芸の展開」[https://www.ndl.go.jp/nature/21]
・――「NDLイメージバンク 花見と宴会」[https://www.ndl.go.jp/imagebank/column/hanamienkai]
・―― 「NDLイメージバンク 富貴の花・牡丹」[https://www.ndl.go.jp/imagebank/column/botan]
・――「本の万華鏡 第9回 江戸の花見 ~花爛漫~」[https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/9/]
・農林水産省「ももの歴史と主な品種」[https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1905_06/spe2_01.html]

・「ツツジ」, コトバンク. [https://kotobank.jp/word/%E3%81%A4%E3%81%A4%E3%81%98-3159515]
・「藤」, コトバンク.[https://kotobank.jp/word/%E8%97%A4-579413]
・「牡丹」, コトバンク. [https://kotobank.jp/word/%E7%89%A1%E4%B8%B9-628175]
・「桃」[https://kotobank.jp/word/%E6%A1%83-579378]
・「やまぶき」, コトバンク.[https://kotobank.jp/word/%E3%82%84%E3%81%BE%E3%81%B6%E3%81%8D-3173841]

26.03.14
一覧ページ

おすすめの記事